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2022.12.03

筋肉痛の科学

皆さんは、運動することで筋肉痛になった経験はありませんか?

ネガティブな印象も多いですが、

筋肉痛についてわかっていること、わかっていないこと

を科学的に解説していきたいと思います✨

筋肉痛は、アスリートの競技パフォーマンスに対して悪影響を及ぼす要因のひとつです。

トレーニングをすると筋肉痛が出てパフォーマンスが低下してしまうかも知れないのでシーズン中や試合前にはあまりトレーニングができない、でもトレーニングをしなさ過ぎることもパフォーマンス低下を招いてしまうのでトレーニングはやっておきたい。。
と、多くのアスリートや指導者が筋肉痛とどう向き合うかで悩んでいることと思います。

筋肉痛がなぜ起こるのか?について理解を深めれば、筋肉痛の発生をうまくコントロールしながらトレーニングを継続していけるのではないかと思います。

そこで今回は、筋肉痛が発生する原理や予防・対処法についてまとめられた最近のレビュー論文をご紹介します。以下はレビュー論文の要約となります。各項目で記載されている情報の詳細や参考文献についてご興味のある方は、元論文を直接入手してお読みいただくことをお勧めします。

Delayed onset muscle soreness (DOMS) management: present state of the art.

CONTRÒ, VALENTINA, ESAMUELA PIERETTA MANCUSO, and PATRIZIA PROIA.  
Trends in Sport Sciences23.3 (2016).

背景

  • 筋力や可動域を含む身体能力低下の主な要因であり心理的苦痛も伴う、遅発性筋肉痛(DOMS)は、伸張性筋活動や慣れていない運動に繰り返しさらされると発生することが知られているが、はっきりとした原因はわかっていない。
  • 長年DOMSの原因として認識されてきた乳酸の蓄積は、実際はDOMSとは全く関係のないことがわかっている。

DOMSの原理

  • 激しい運動による筋肉の微小外傷が原因である可能性が高いものの、確実にそうであるとは言い切れない。
  • 伸張性筋活動中の不可逆的な変形に起因する筋結合組織と腱の付着部との断裂が関連していることが示唆された。
  • 運動によって筋細胞膜が損傷することで細胞内に流れ込んだカルシウムが、Z線やトロポニン、トロポミオシンを分解するカルシウム依存性タンパク質分解酵素を活性化。筋細胞膜の段階的な破壊により細胞内成分が間質腔および血漿に拡散し損傷領域のリンパ球を引き付け、ヒスタミン、キニン、カリウムなどの物質を蓄積させ侵害受容器(痛みを伴う刺激の感覚受容器)を刺激する可能性がある。
  • 筋線維の損傷は必須ではなく、神経線維成長因子(NGF)およびグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)といった神経因子がDOMSに関与している可能性も示唆されている。
  • 代謝ストレスや活性酸素の関与も考えられているがその関係性は間接的で不確か。
  • 最近では、アクチンとミオシンの「興奮/収縮結合」と筋小胞体からの継続的なカルシウムイオン放出が、筋肉への神経入力を制御する感覚調節因子を阻害することがDOMSに関係していることや、DOMSは隣接する筋肉群へも広がることが報告されている。

筋収縮のタイプ

  • 伸張性筋活動は、短縮性や等尺性よりも大きな筋損傷や炎症反応を発生させることが知られている。
  • この損傷はクレアチンキナーゼ(CK)などの酵素を放出し、運動後1~3日間増大し続け筋力低下を引き起こす。

症状とトレーニング

  1. 筋力の低下:運動後48時間でピークに達し、最大5日間で回復する。
  2. 痛み:運動後1~3日でピークに達し、最大7日間で消失する。
  3. 張りと腫れ:運動後3~4日続き、10日以内で解消される。

筋肉痛の間に伸張性筋活動を含むトレーニングを行うと筋損傷を悪化させ回復が遅れるとして、筋肉痛が完全におさまるまで運動をすべきではないという考えがあるが、いくつかの研究は、筋肉痛があっても筋損傷を悪化させずにトレーニングを行うことが可能であるとしている。さらに、痛みの度合いは筋損傷の程度とは比例しないことも報告されている。

DOMSの治療

DOMSの治療に関して非常に多くの研究がなされているが、有用な治療および予防はあまり示されていないのが現状である。

ストレッチ

静的ストレッチには、運動前・中・後のどこで実施してもDOMSの発症を抑える効果はないことが明らかになっている。

サプリメント

  • コエンザイムQやIカルニチン、エピガロカテキンガレート(緑茶)、N-アセチル-システインなどの抗酸化物質を経口補給することが筋損傷を軽減しDOMS治療に役立つことが注目されている。これらはDOMSを効果的に治療できることを示す結果がある一方で、悪影響を及ぼす可能性も示唆されている。
  • 分岐鎖アミノ酸(BCAA)を1日の間に計画的に摂取した場合、同量のプラセボ群よりも摂取後72時間のDOMSが64%少なかったことが報告されている。この他にもBCAA摂取によるDOMSの軽減効果が複数報告されている。さらに、タウリン、リンゴ酸シトルリン、N-アセチル-システインおよびグルタミンの摂取もDOMSの削減に貢献できることが示唆されている。

食事の摂取

  • いくつかの研究は、運動直後の牛乳またはタンパク質/炭水化物サプリメントの摂取が24~48時間後のDOMSを軽減する可能性があるとしている。
  • 伸張性筋活動後24~48時間以内にコーヒー約2杯分のカフェインを摂取すると痛みが最大48%軽減されることや、レジスタンストレーニングの1時間前に5mg/kg(コーヒー約3杯分)のカフェインを摂取するとDOMSが低下する可能性があることが示唆されている。

非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)

NSAIDsは筋損傷に伴う炎症や腫れに対して効能があると考えられているが、その研究においては種類や用量の一貫性を欠くことや、胃腸の痛みや高血圧などの副作用なども確認されているため、DOMS治療に最適とは言えない。

寒冷療法と冷水浸漬

  • これまで寒冷療法や冷却がDOMS治療として提唱されてきたが、38℃の温水浸漬が20℃の冷水浸漬よりもDOMSの低減に効果があるとする報告もあるなどその有効性は確立されていなかった。
  • 2015年のHohenauerらによる27件の論文レビューで、冷却(特に冷水浸漬)が対象群と比較して24時間の回復後のDOMS症状に有意な影響を与えることが明らかとなった。

コンカレントトレーニング

Tufanoらは、60回の伸張性筋活動後に20分間の低および中強度の有酸素運動を行い、中程度の運動が低強度運動および完全休息よりもDOMSの減少に繋がることを示唆した。

繰り返し効果

  • ワークアウトに慣れていくことでDOMSによる痛みが弱くなっていくと考えられている。多量の伸張性トレーニングを実施する1週間以上前に、あらかじめ少量の伸張性トレーニングを行なっておけばDOMSを予防・軽減できることが確認されている。
  • 一方、事前に伸張性トレーニングを行なったにも関わらず炎症が減衰しなかったことが報告されるなど、繰り返し効果のメカニズムは完全には明らかとなっていない

結論

  • 本レビューで取り上げたほとんど全ての予防および治療法には矛盾する結果があり、DOMSのメカニズムはまだ十分に理解されているとは言えない。
  • 既存の文献はDOMSの予防・治療に関する有用性を提供してくれているが、現場で適用する際には効果の矛盾についても考慮すべきである。

わたしの考え

以上の知見をまとめると、

筋肉痛のメカニズムや効果的な予防法やケアの手法は未だ良くわかっていない

という事になりますね。

BCAAやカフェインが良い、とかアイスバスやフォームローリングが効果的、といった知見はある程度その効果が認められているものの、用法や用量については諸説あってまだ何とも言えないところなので、

いつ・どこで・何を・どれくらい使うかは、現場で判断するしかない

というのが現状のようです。

ただし、伸張性筋活動を繰り返したあとに発症するという点においてはどうやら間違いなさそうなので、筋肉痛を予防するには極端にエキセントリックな負荷のかかるトレーニングはやらない方が良い、という事になるかと思います。

ですので冒頭に書いたような、シーズン中や重要な試合の前にトレーニングをしておきたいけど筋肉痛にはなりたくない、という場合には、

極端にエキセントリック動作をコントロールする筋肥大系のトレーニング種目は試合の1週間前からはやらないようにして、コンセントリック収縮のみを強調するようなトレーニングを中心に行うのが良い

かと思います。

実際に、わたしもリーグ戦期間中などの試合期において試合のある週は、エキセントリックなトレーニング(特に下半身)はできるだけ減らし、コンセントリック収縮のみを行うようにアレンジしたトレーニング種目を処方するようにしています。
ただし、試合のない週(Bye week:バイウィーク)には、試合期であっても体重(筋量)維持のためにあえてエキセントリックな負荷のかかる種目を入れることもあります。もちろんその場合は、翌日や翌々日の練習強度や量などを考慮してもらうよう監督・コーチと話し合うことが必要でしょう。

よろしければ参考にしてみてください😀

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